「NISA貧乏」は広がっているのか。データで見る本当の変化

2026-07-05T09:37:08.677Z

「NISA貧乏」は広がっているのか。データで見る本当の変化

平均的な家計データでは、若い世代に「NISA貧乏」が広く起きているとは言いにくいです。ただし、家計が現金だけで守る時代から、預金と投資を組み合わせる時代へ移り始めたことは確かです。

NISA資産形成家計投資貯蓄から投資へ金融リテラシー

結論は、「NISA貧乏」は流行語ほど広がっていないが、家計の考え方は変わり始めています。

“NISA貧乏”は本当か? データで見る「貯蓄から投資へ」の実相
“NISA貧乏”は本当か? データで見る「貯蓄から投資へ」の実相

「NISA貧乏」とは、NISA(少額投資非課税制度)にお金を入れすぎて、毎日の生活が苦しくなる状態です。

元記事は、総務省「家計調査」を使って、この現象が若い世代に広く起きているかを調べています。

結論ははっきりしています。平均的な家計データで見る限り、「若者の多くがNISAで生活苦」とは言えません。 出典: TBS CROSS DIG with Bloomberg https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2778343?display=1

ただし、見逃してはいけない変化があります。

投資をする人は増えています。NISA口座も増えています。家計全体でも、現金・預金だけでなく、投資信託や株式を持つ割合が上がっています。

つまり問題は、「NISAは危ないか」ではありません。

本当の問いは、こうです。

生活を守るお金と、将来に回すお金を、どう分けるか。

そもそもどういうこと?

結論は、NISAは「税金が軽くなる投資用の箱」であり、生活費の代わりではありません。

NISAでは、株式や投資信託で得た利益に税金がかかりません。

ふつうは投資の利益に約20%の税金がかかります。たとえば10万円もうかると、約2万円が税金です。NISAなら、この部分が非課税です。 出典: 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/article/202401/entry-5555.html

2024年から新しいNISAになりました。

年間で最大360万円まで投資できます。生涯では1,800万円まで使えます。1,800万円は、毎月5万円ずつ積み立てても30年かかる額です。

この「枠の大きさ」が、少しやっかいです。

枠が大きいと、人は「使わないともったいない」と感じます。飲食店のクーポンを、必要がないのに使いたくなる感覚に近いです。

でもNISAの枠は、家計のノルマではありません。

flowchart LR
  A[給料が入る] --> B[生活費を払う]
  B --> C[急な出費に備える預金]
  C --> D[数年以内に使うお金]
  D --> E[NISAなど長期投資]
  E --> F[将来の資産]

大事なのは順番です。

家賃、食費、医療費、税金、近い将来の引っ越し費用。これらを削ってまで投資すると、生活がもろくなります。

金融庁も、資産形成の基本として「家計管理」と「ライフプランニング」を先に置いています。 出典: 金融庁 NISA特設サイト https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/invest/

くわしく見てみよう

結論は、平均値では「生活を削って投資へ一直線」という姿は見えにくいです。

元記事が見た一つ目の数字は、平均消費性向です。

平均消費性向とは、使えるお金のうち、何割を消費に使ったかです。手取り30万円の人が生活に18万円使えば、60%です。

元記事によると、二人以上の勤労者世帯では、30歳未満の平均消費性向が2010年の73.2%から、2025年には58.3%へ下がりました。30代も68.2%から55.4%へ下がっています。

これだけを見ると、「若者が消費を削っている」と見えます。

でも、全体平均も74.0%から65.0%へ下がっています。若い世代だけの話ではありません。

物価高、将来不安、住宅費、子育て費用、老後不安。いろいろな理由が重なります。消費が減った分が、そのままNISAへ向かったとは言えません。

二つ目の数字は、有価証券(株式・債券・投資信託など)の割合です。

30歳未満では、金融資産に占める有価証券の割合が、2013年の5.8%から2025年には28.6%へ上がりました。30代も6.4%から27.4%へ上がっています。

これは大きな変化です。

ただし、ここにも注意点があります。

有価証券の割合は、新しく買った分だけでなく、株価が上がった分でも増えます。持っている投資信託の値段が上がれば、何も買い足さなくても割合は増えます。

三つ目の数字が、いちばん冷静です。

貯蓄に占める有価証券純購入の割合です。純購入とは、買った額から売った額を引いたものです。

元記事では、2013年から2025年にかけて、30歳未満は1.0%から1.4%へ、30代は0.9%から2.6%へ上がりました。

増えています。けれど、急増ではありません。

xychart-beta
  title "貯蓄に占める有価証券純購入の割合"
  x-axis ["30歳未満 2013", "30歳未満 2025", "30代 2013", "30代 2025"]
  y-axis "割合(%)" 0 --> 3
  bar [1.0, 1.4, 0.9, 2.6]

さらに、世帯主が34歳以下の二人以上世帯では、2025年も貯蓄の大部分は預貯金純増でした。元記事では80.9%です。

つまり、若い家計の中心はまだ預金です。

NISAは広がっています。けれど、家計全体が投資に全振りしているわけではありません。

くらべてみよう

結論は、日本全体では投資が増えているが、現金・預金もまだ圧倒的に大きいです。

日本証券業協会の資料によると、全金融機関のNISA口座数は2025年12月末で約2,826万口座です。新NISA開始前の2023年12月末は約2,125万口座でした。約701万口座増えています。 出典: 日本証券業協会 https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/files/nisajoukyou/new_nisaall3.pdf

買付額も大きく増えました。全金融機関のNISA累計買付額は、2025年12月末までに約71.4兆円です。

71.4兆円は、1人100万円を7,140万人に配れる規模です。日本の人口の半分を大きく超えます。

一方で、日銀の資金循環統計を見ると、家計の金融資産は2026年3月末で2,386兆円です。そのうち現金・預金は1,126兆円、構成比47.2%です。 出典: 日本銀行「2026年第1四半期の資金循環」 https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

1,126兆円は、NISA累計買付額71.4兆円の約16倍です。

見る数字最新の確認値何がわかるか
NISA口座数約2,826万口座投資の入口は広がった
NISA累計買付額約71.4兆円制度利用はかなり進んだ
家計の金融資産2,386兆円日本の家計全体は巨大
うち現金・預金1,126兆円まだ半分近くは現金・預金
投資信託165兆円伸びているが主役ではない
株式等398兆円株高の影響も大きい
pie title 2026年3月末 家計金融資産のざっくり構成
  "現金・預金" : 47.2
  "投資信託" : 6.9
  "株式等" : 16.7
  "保険・年金など" : 24.5
  "その他" : 4.7

この図から見えるのは、「貯蓄から投資へ」は始まったが、終わったわけではないということです。

また、平均値には弱点があります。

平均は、全体の姿を見るには便利です。けれど、一部の人の苦しさは隠れます。

たとえば、10人のうち9人が無理なく積み立て、1人が生活費を削って月10万円を投資していても、平均では見えにくくなります。

だから、「NISA貧乏が広く起きている」とは言えません。 同時に、「NISA貧乏は存在しない」とも言い切れません。

個人ごとの困窮者数は、今回確認した公開データからは確認できません。

わたしの見方

結論は、「NISA貧乏」という言葉は少し雑ですが、家計の危険信号としては役に立ちます。

私は、この話を「投資のしすぎ問題」だけで見ると、少し外すと思います。

本質は、現代の家計が三つの不安を同時に抱えていることです。

一つ目は、物価の不安です。預金の額が同じでも、物の値段が上がれば買える量は減ります。

二つ目は、老後の不安です。年金だけで足りるのか、多くの人が確信を持てません。

三つ目は、乗り遅れの不安です。SNSでは「月いくら積み立てた」「NISA枠を最短で埋める」といった話が目立ちます。

この三つが重なると、投資は冷静な資産形成ではなく、焦りの行動になります。

ここが危ない点です。

NISAは、早く満額にする競争ではありません。生活を長く安定させるための道具です。

政府広報や金融庁の説明でも、NISAは家計の安定的な資産形成を支える制度です。生活費を削って枠を埋める制度ではありません。 出典: 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/article/202401/entry-5555.html

反対に、投資をまったくしないことにもリスクがあります。

日銀の統計では、家計金融資産の約半分が現金・預金です。預金はすぐ使える安心があります。けれど、物価が上がる時代には、お金の力が少しずつ弱くなります。

だから答えは、「投資するか、しないか」ではありません。

答えは、「生活を守る預金」と「長く育てる投資」を分けることです。

mindmap
  root((家計の優先順位))
    生活を守る
      家賃
      食費
      医療費
      税金
    近い予定に備える
      引っ越し
      結婚
      出産
      学び直し
    将来へ回す
      NISA
      iDeCo
      長期の投資信託

関連して見ておきたい動画もあります。

だから何をすればいい?

結論は、NISAの金額を決める前に、家計の「逃げ道」を作ることです。

まず、生活防衛資金を持ちます。

生活防衛資金とは、急な病気、退職、家電の故障などに備えるお金です。会社員なら生活費の3か月から6か月分が一つの目安です。自営業や収入が不安定な人は、もう少し厚めが安心です。

次に、3年以内に使うお金は投資に回しすぎないことです。

旅行、引っ越し、車、結婚、出産、学び直し。使う時期が近いお金は、値下がりの時に売らされると困ります。

その上で、NISAの積立額を決めます。

おすすめは、次の順番です。

  1. 毎月の手取りを確認する。
  2. 固定費と生活費を引く。
  3. 急な出費用の預金を先に確保する。
  4. 3年以内に使う予定のお金を分ける。
  5. 残ったお金から、無理のないNISA額を決める。

積立額は、途中で変えてかまいません。

むしろ、変えられることが強みです。

昇給したら増やす。転職中は減らす。子どもが生まれたら止める。ボーナスが出たら少し足す。

投資で大事なのは、満額より継続です。

最後に、次の三つに当てはまるなら、NISA額を下げた方がよいです。

危険信号起きていること見直し方
クレカ残高が増える投資の裏で借金が増えている積立を止めて返済を優先
生活費口座が毎月ギリギリ予備費が足りない積立額を半分にする
近い予定のお金まで投資下落時に困る3年以内の資金は預金へ

NISAは、人生を細くするための制度ではありません。

今の暮らしを守りながら、将来の選択肢を増やすための制度です。

「NISA貧乏」という言葉に振り回される必要はありません。けれど、その言葉をきっかけに、自分の家計の順番を点検する価値はあります。

参考にしたページ