
「NISA貧乏」は広がっているのか。データで見る本当の変化
平均的な家計データでは、若い世代に「NISA貧乏」が広く起きているとは言いにくいです。ただし、家計が現金だけで守る時代から、預金と投資を組み合わせる時代へ移り始めたことは確かです。
結論は、「NISA貧乏」は流行語ほど広がっていないが、家計の考え方は変わり始めています。

「NISA貧乏」とは、NISA(少額投資非課税制度)にお金を入れすぎて、毎日の生活が苦しくなる状態です。
元記事は、総務省「家計調査」を使って、この現象が若い世代に広く起きているかを調べています。
結論ははっきりしています。平均的な家計データで見る限り、「若者の多くがNISAで生活苦」とは言えません。 出典: TBS CROSS DIG with Bloomberg https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2778343?display=1
ただし、見逃してはいけない変化があります。
投資をする人は増えています。NISA口座も増えています。家計全体でも、現金・預金だけでなく、投資信託や株式を持つ割合が上がっています。
つまり問題は、「NISAは危ないか」ではありません。
本当の問いは、こうです。
生活を守るお金と、将来に回すお金を、どう分けるか。
そもそもどういうこと?
結論は、NISAは「税金が軽くなる投資用の箱」であり、生活費の代わりではありません。
NISAでは、株式や投資信託で得た利益に税金がかかりません。
ふつうは投資の利益に約20%の税金がかかります。たとえば10万円もうかると、約2万円が税金です。NISAなら、この部分が非課税です。 出典: 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/article/202401/entry-5555.html
2024年から新しいNISAになりました。
年間で最大360万円まで投資できます。生涯では1,800万円まで使えます。1,800万円は、毎月5万円ずつ積み立てても30年かかる額です。
この「枠の大きさ」が、少しやっかいです。
枠が大きいと、人は「使わないともったいない」と感じます。飲食店のクーポンを、必要がないのに使いたくなる感覚に近いです。
でもNISAの枠は、家計のノルマではありません。
flowchart LR A[給料が入る] --> B[生活費を払う] B --> C[急な出費に備える預金] C --> D[数年以内に使うお金] D --> E[NISAなど長期投資] E --> F[将来の資産]
大事なのは順番です。
家賃、食費、医療費、税金、近い将来の引っ越し費用。これらを削ってまで投資すると、生活がもろくなります。
金融庁も、資産形成の基本として「家計管理」と「ライフプランニング」を先に置いています。 出典: 金融庁 NISA特設サイト https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/invest/
くわしく見てみよう
結論は、平均値では「生活を削って投資へ一直線」という姿は見えにくいです。
元記事が見た一つ目の数字は、平均消費性向です。
平均消費性向とは、使えるお金のうち、何割を消費に使ったかです。手取り30万円の人が生活に18万円使えば、60%です。
元記事によると、二人以上の勤労者世帯では、30歳未満の平均消費性向が2010年の73.2%から、2025年には58.3%へ下がりました。30代も68.2%から55.4%へ下がっています。
これだけを見ると、「若者が消費を削っている」と見えます。
でも、全体平均も74.0%から65.0%へ下がっています。若い世代だけの話ではありません。
物価高、将来不安、住宅費、子育て費用、老後不安。いろいろな理由が重なります。消費が減った分が、そのままNISAへ向かったとは言えません。
二つ目の数字は、有価証券(株式・債券・投資信託など)の割合です。
30歳未満では、金融資産に占める有価証券の割合が、2013年の5.8%から2025年には28.6%へ上がりました。30代も6.4%から27.4%へ上がっています。
これは大きな変化です。
ただし、ここにも注意点があります。
有価証券の割合は、新しく買った分だけでなく、株価が上がった分でも増えます。持っている投資信託の値段が上がれば、何も買い足さなくても割合は増えます。
三つ目の数字が、いちばん冷静です。
貯蓄に占める有価証券純購入の割合です。純購入とは、買った額から売った額を引いたものです。
元記事では、2013年から2025年にかけて、30歳未満は1.0%から1.4%へ、30代は0.9%から2.6%へ上がりました。
増えています。けれど、急増ではありません。
xychart-beta title "貯蓄に占める有価証券純購入の割合" x-axis ["30歳未満 2013", "30歳未満 2025", "30代 2013", "30代 2025"] y-axis "割合(%)" 0 --> 3 bar [1.0, 1.4, 0.9, 2.6]
さらに、世帯主が34歳以下の二人以上世帯では、2025年も貯蓄の大部分は預貯金純増でした。元記事では80.9%です。
つまり、若い家計の中心はまだ預金です。
NISAは広がっています。けれど、家計全体が投資に全振りしているわけではありません。
くらべてみよう
結論は、日本全体では投資が増えているが、現金・預金もまだ圧倒的に大きいです。
日本証券業協会の資料によると、全金融機関のNISA口座数は2025年12月末で約2,826万口座です。新NISA開始前の2023年12月末は約2,125万口座でした。約701万口座増えています。 出典: 日本証券業協会 https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/files/nisajoukyou/new_nisaall3.pdf
買付額も大きく増えました。全金融機関のNISA累計買付額は、2025年12月末までに約71.4兆円です。
71.4兆円は、1人100万円を7,140万人に配れる規模です。日本の人口の半分を大きく超えます。
一方で、日銀の資金循環統計を見ると、家計の金融資産は2026年3月末で2,386兆円です。そのうち現金・預金は1,126兆円、構成比47.2%です。 出典: 日本銀行「2026年第1四半期の資金循環」 https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf
1,126兆円は、NISA累計買付額71.4兆円の約16倍です。
| 見る数字 | 最新の確認値 | 何がわかるか |
|---|---|---|
| NISA口座数 | 約2,826万口座 | 投資の入口は広がった |
| NISA累計買付額 | 約71.4兆円 | 制度利用はかなり進んだ |
| 家計の金融資産 | 2,386兆円 | 日本の家計全体は巨大 |
| うち現金・預金 | 1,126兆円 | まだ半分近くは現金・預金 |
| 投資信託 | 165兆円 | 伸びているが主役ではない |
| 株式等 | 398兆円 | 株高の影響も大きい |
pie title 2026年3月末 家計金融資産のざっくり構成 "現金・預金" : 47.2 "投資信託" : 6.9 "株式等" : 16.7 "保険・年金など" : 24.5 "その他" : 4.7
この図から見えるのは、「貯蓄から投資へ」は始まったが、終わったわけではないということです。
また、平均値には弱点があります。
平均は、全体の姿を見るには便利です。けれど、一部の人の苦しさは隠れます。
たとえば、10人のうち9人が無理なく積み立て、1人が生活費を削って月10万円を投資していても、平均では見えにくくなります。
だから、「NISA貧乏が広く起きている」とは言えません。 同時に、「NISA貧乏は存在しない」とも言い切れません。
個人ごとの困窮者数は、今回確認した公開データからは確認できません。
わたしの見方
結論は、「NISA貧乏」という言葉は少し雑ですが、家計の危険信号としては役に立ちます。
私は、この話を「投資のしすぎ問題」だけで見ると、少し外すと思います。
本質は、現代の家計が三つの不安を同時に抱えていることです。
一つ目は、物価の不安です。預金の額が同じでも、物の値段が上がれば買える量は減ります。
二つ目は、老後の不安です。年金だけで足りるのか、多くの人が確信を持てません。
三つ目は、乗り遅れの不安です。SNSでは「月いくら積み立てた」「NISA枠を最短で埋める」といった話が目立ちます。
この三つが重なると、投資は冷静な資産形成ではなく、焦りの行動になります。
ここが危ない点です。
NISAは、早く満額にする競争ではありません。生活を長く安定させるための道具です。
政府広報や金融庁の説明でも、NISAは家計の安定的な資産形成を支える制度です。生活費を削って枠を埋める制度ではありません。 出典: 政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/article/202401/entry-5555.html
反対に、投資をまったくしないことにもリスクがあります。
日銀の統計では、家計金融資産の約半分が現金・預金です。預金はすぐ使える安心があります。けれど、物価が上がる時代には、お金の力が少しずつ弱くなります。
だから答えは、「投資するか、しないか」ではありません。
答えは、「生活を守る預金」と「長く育てる投資」を分けることです。
mindmap
root((家計の優先順位))
生活を守る
家賃
食費
医療費
税金
近い予定に備える
引っ越し
結婚
出産
学び直し
将来へ回す
NISA
iDeCo
長期の投資信託
関連して見ておきたい動画もあります。
だから何をすればいい?
結論は、NISAの金額を決める前に、家計の「逃げ道」を作ることです。
まず、生活防衛資金を持ちます。
生活防衛資金とは、急な病気、退職、家電の故障などに備えるお金です。会社員なら生活費の3か月から6か月分が一つの目安です。自営業や収入が不安定な人は、もう少し厚めが安心です。
次に、3年以内に使うお金は投資に回しすぎないことです。
旅行、引っ越し、車、結婚、出産、学び直し。使う時期が近いお金は、値下がりの時に売らされると困ります。
その上で、NISAの積立額を決めます。
おすすめは、次の順番です。
- 毎月の手取りを確認する。
- 固定費と生活費を引く。
- 急な出費用の預金を先に確保する。
- 3年以内に使う予定のお金を分ける。
- 残ったお金から、無理のないNISA額を決める。
積立額は、途中で変えてかまいません。
むしろ、変えられることが強みです。
昇給したら増やす。転職中は減らす。子どもが生まれたら止める。ボーナスが出たら少し足す。
投資で大事なのは、満額より継続です。
最後に、次の三つに当てはまるなら、NISA額を下げた方がよいです。
| 危険信号 | 起きていること | 見直し方 |
|---|---|---|
| クレカ残高が増える | 投資の裏で借金が増えている | 積立を止めて返済を優先 |
| 生活費口座が毎月ギリギリ | 予備費が足りない | 積立額を半分にする |
| 近い予定のお金まで投資 | 下落時に困る | 3年以内の資金は預金へ |
NISAは、人生を細くするための制度ではありません。
今の暮らしを守りながら、将来の選択肢を増やすための制度です。
「NISA貧乏」という言葉に振り回される必要はありません。けれど、その言葉をきっかけに、自分の家計の順番を点検する価値はあります。
参考にしたページ
- TBS CROSS DIG with Bloomberg「“NISA貧乏”は本当か? データで見る『貯蓄から投資へ』の実相」
- 政府広報オンライン「『NISA』って何?わかりやすく解説」
- 金融庁 NISA特設サイト「資産形成の基本」
- 金融庁 NISA特設サイト「利用状況調査」
- 日本証券業協会「NISA口座の開設・利用状況(2025年12月末時点)」
- 日本銀行「参考図表 2026年第1四半期の資金循環(速報)」
- 総務省統計局「家計調査報告 2025年平均結果の概要」
- 第一ライフグループ「新NISAで加速する『貯蓄から投資へ』」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2778343?display=1
https://www.gov-online.go.jp/article/202401/entry-5555.html
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/invest/
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/survey/
https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/files/nisajoukyou/new_nisaall3.pdf
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2025.pdf

